前回、退職代行業者のサービスが非弁行為に該当することを説明しました。加えて、残業代の請求などの問題もあり、これらの問題を一挙的に解決するには、弁護士に依頼することがベストであることを解説しました。今回は、残業代請求の問題について解説します。企業側に取っても参考になりますので、是非、参考にしてみて下さい。
さて、皆さんは1日または1週の労働時間の上限をご存じでしょうか。労働基準法では、1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場においては44時間)を法定労働時間と定めており、変形労働時間制を適用していない企業の場合、1年間の労働時間の上限は2,085時間、1か月の上限は173時間となります。
1日8時間を超えた時間については、1時間当たりの賃金に割増賃金率125%以上を乗じた賃金が発生します。また、1日7時間、1週6日労働した場合でも1日8時間を超えていないが、1週40時間を超えている(1日7時間×6日=42時間)ため40時間を超えた2時間についても同様に割増賃金が発生します。
仮に企業の所定労働時間が、1日7時間であって、7時間を超えて8時間以下(1時間以内の残業)の残業(法定時間内残業)を行った場合は、1時間当たりの賃金に割増賃金率100%以上を乗じた賃金が発生し、8時間を超えた時間(法定時間外残業)があれば、割増賃金率125%以上の賃金を計算します。
企業は、労働基準法で定めている割増賃金率以上とする必要があるため、企業によっては、労働基準法を上回る割増賃金率を規定している場合もありますので、企業の賃金規程等で割増率を確認してみましょう。
日本全国には数百万社という数多くの企業が存在しており、労働者を1人でも雇っている企業は、「賃金、労働時間等」について労働基準法が適用され、賃金額、1日の勤務時間(始業・終業時間、所定労働時間)、1週の勤務日数(所定労働日数)等に関し、双方で労働契約を締結します。
労働契約で定めた賃金額は、時間外労働を行わなかった場合に支払われる額であるため、所定労働時間を超えた場合や休日労働を行った場合には、通常の賃金の他に割増賃金の支払い義務が生じます。
企業によっては、あらかじめ時間外労働〇〇時間分と設定し、固定残業手当(みなし残業手当ともいわれています)として支払っている企業も存在します。その場合は、設定した時間外労働時間数を超えた時間分を企業は労働者に対して、割増賃金として支払う義務が生じますので、就業規則や雇用契約書等を確認してみましょう。
確認した結果、固定残業手当制度を導入している場合は、固定残業手当制度が有効であるかどうかを一度確認するべきであり、導入している制度が有効であるかどうかの判断が必要であり、その判断基準は次のとおりです。
1.固定残業手当制度を適用する労働契約となっているかどうか
→固定残業手当制度は、企業と労働者が個別の労働契約で合意している、企業が固定残業手当制度について明記された就業規則を労働者に周知しているかどうかによって判断しますので、①個別の労働契約での合意がない、②就業規則等に規定されていない、③就業規則等で規定しているが労働者への周知を行っていない場合などは、固定残業手当制度の効力は生じません。
2.所定労働時間分に対する賃金と固定残業時間分に対する賃金が明確に区別できるかどうか
→企業が固定残業手当制度を導入している場合は、通常の労働時間に対する賃金(いわゆる基本給)と時間外労働時間に対する賃金との判別がつき、設定されている時間外労働時間数に対する時間単価が適正であるかどうかを確認しなくてはなりません。
時間単価については、労働者の賃金によって異なってきますので、就業規則に付随している賃金規程の中に時間単価の算出方法が明記されているはずですので、算出方法を確認し、時間単価が都道府県別最低賃金を下回っていないかどうか確認してみることをお勧めします。
次に割増賃金の計算方法について説明します。
1)法定時間内残業の時間数と法定時間外労働の時間数を集計
1日、1週について所定外労働時間と法定労働時間を超えた時間数の集計を行います。集計期間は通常賃金の算定期間(給与締日)と同様ですが、企業によっては、集計期間が賃金算定期間と異なっている場合もございますので、企業の賃金規程を確認した方がいいでしょう。(1日の所定労働時間を8時間とする企業の場合は、所定外労働時間数と法定労働時間を超えた時間数が同じ時間数になります。)
2)固定残業手当にかかる時間数との相殺
あらかじめ、時間外労働〇〇時間分として、固定残業手当が支給されている場合は、1)で集計した法定時間外労働の時間数と固定残業手当としての時間外労働の時間数を差し引きます。
3)時間外労働に対する割増賃金の計算
割増賃金の計算方法については、企業に就業規則がある場合は就業規則内に計算方法が明記されております。また、〇〇時間相当分として固定残業手当が支払われている場合にも以下の計算式で適正な手当額であるかどうか判断ができます。(手当の種類によっては、計算式に含めない手当もありますので、注意が必要です)
(例)
基本給+〇〇手当+〇〇手当+〇〇手当 × 割増率 ×時間外労働の時間数 1か月の平均所定労働時間数
上記計算式は、様々な企業でよく見かける時間外労働に対する割増賃金の計算式です。ここで「1か月の平均所定労働時間数」の算出方法は、簡単に求めることができます。
(365日-所定休日数)×1日の所定労働時間 12か月
今回は、変形労働時間制等の弾力的労働時間制度を導入していない企業を仮定しておりますので、企業で変形労働時間制等を導入している場合は、注意が必要です。
ご自身が勤務されている企業の就業規則等やご自身が企業とどのような契約で雇用契約を結んでいるのか一度確認をしてみてはいかがでしょうか。