前回紹介した方法で侵害情報の書込みがされたサイトの管理・運営会社を探索でき,これが判明した場合には,当該会社に対して削除依頼を行うことになります。
1オンライン等の申請フォームを利用した削除依頼
サイトの中には,オンラインフォーム,メールフォームを設けており,クリックするとメールソフトが立ち上がり,このソフトを利用して削除依頼をすることができる仕組みとなっているものがあります。削除依頼をするために記載が必要な事項は各サイトによって異なりますが,①氏名,②連絡先(メールアドレス),③削除を求める対象(ウェブサイトを識別するための符号であるURLと削除依頼の対象とする具体的部分), ④削除を求める理由を記載することを求めるサイトが大半です。 ③の削除を求める対象については,侵害情報の書込みがされたURLを個別に指定する必要があります。 例えば,電子掲示板では,同時進行的に複数の話題が取り上げられ,異なるスレッドに掲載されているので,問題となるスレッドのURLを個別に指定しなければいけません。 また,スレッドの中のどの書込み部分を問題とするのかを具体的に特定した記載をする必要があります。 ④の削除を求める理由については,問題となる書込みが依頼者本人に関するものであることを背景事情を含めて記載する必要があり,当該書込みにより自己のどのような権利が侵害されているのかを具体的に記載する必要があります。削除依頼を受けたプロバイダ等は,侵害情報の削除に同意するかどうかを発信者に照会し,発信者が当該照会を受けた日から7日以内に削除に同意しない旨の申出をしない場合(プロバイダ責任制限法3条1項2号)は,当該情報を削除したことによって発信者に生じた損害を賠償する義務もないので,削除に応ずるのが通常です。また,プロバイダ等が侵害情報の流通によって不当な権利侵害が行われたと信じるに足りる相当な理由があった場合も,同様に発信者に対する損害賠償責任を免れますが(同条1号),相当な理由の有無の判断が困難なケースもあるため,削除が行われないこともあります。プロバイダ等の中には,削除依頼を無視し,適切な対応をとらない業者もいます。なお,プロバイダ等は,送信防止措置を講じなかった場合に,当該措置をとることが技術的に可能であって,侵害情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき又は当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知り得たと認めるに足りる相当な理由があるときは,権利侵害を受けた者に対して損害賠償義務を負うことになります(プロバイダ責任制限法3条1項)。
2 テレコムサービス協会の書式による削除依頼
テレコムサービス協会(以下「テレサ協会」という。)は,情報通信に関わるインターネットサービスプロバイダ,ケーブルテレビ会社,回線事業者,コンテンツプロバイダ,ホスティングプロバイダ等の幅広い事業者を会員としている一般社団法人であり,平成14年にプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会(特定電気通信の情報流通による権利侵害に適切・迅速に対処できるようガイドラインの検討等を行うことを目的とし,インターネット関連の団体や著作権及び商標権関連の団体を構成員とし,学識経験者,法律実務家等をオブザーバーとする協議会)を設立しています。
同協議会は,特定電気通信に係る情報流通により権利を侵害された者から送信防止措置の要請を受けた場合に,特定電気通信役務提供者(プロバイダ等)がとるべき行動基準を明確化し,申立者,発信者及びプロバイダ等の各利益を尊重しつつ,プロバイダ等による迅速かつ適切な対応を促進するための指針として,名誉棄損・プライバシー関係,商標権関係及び著作権関係の各ガイドラインを作成し,ホームページ上で公表しています。
(https://www.telesa.or.jp/consortium/provider)
上記各ガイドラインには,プロバイダ責任制限法3条の趣旨や裁判を踏まえて,要請を受けた事業者が送信防止措置をとるべきかどうかの判断基準が記述され,また,サイト上の情報流通により権利を侵害された者がプロバイダ等に対し削除依頼(送信防止措置依頼)を行うために用いる書式が掲記されています。
その書式は,別紙書式①-1ないし3の「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書(名誉棄損・プライバシー)」,別紙様式の「商標権を侵害する商品情報の送信を防止する措置の申出について」,別紙様式AないしCの「著作物等の送信を防止する措置の申出について」のとおりです。
記載様式は被侵害権利の内容によって異なりますが,権利侵害を主張する者の住所,住所及び連絡先,侵害情報が掲載されている場所(URLその他情報特定に必要な情報),掲載されている情報の内容,侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由などを記載する様式となっています。権利侵害の理由については,削除請求の実体的要件に即した具体的記載をする必要があります。プロバイダ等は,前述した発信者に対する照会結果や権利侵害が行われたと信じるに足りる相当の理由の有無を考慮して,削除依頼に応じるかどうかを判断することになります。
削除依頼の相手方であるプロバイダ等がテレサ協会の会員であれば,当該プロバイダ等は,上記各ガイドラインの趣旨・内容を踏まえて,送信防止措置の可否について適切な対応を行うことを期待できます。
3 人権擁護機関に対する削除依頼の申出
法務省所管の法務局は人権擁護機関であり,重要な人権侵害事案で名誉棄損,プライバシー侵害等に該当する場合には,被害者からの申告等を端緒として,ネット上の侵害情報の削除依頼をプロバイダ等に行っています。公務所である法務局がプロバイダ等に対して侵害情報の削除依頼を行った場合には,プロバイダ等が当該情報を削除したとしても,発信者から損害賠償責任を問われるおそれは乏しいから,当該削除依頼に応じることが期待できます。よって,侵害情報による名誉棄損,プライバシー侵害等が重要な人権侵害事案である場合には,書簡法務局に対して,削除依頼を行うよう申し出ることも考えられます。
(弁護士法人赤瀬法律事務所) 2020年6月 1日 08:00 | 個別ページ