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名誉毀損になる表現行為

先日,インターネット上の誹謗中傷対策について,発信者情報開示を過度に容易にすることは,表現の自由を委縮させるおそれもあるため,議論を進めるにあたっては表現の自由とのバランスに気を付ける必要があるとお伝えしました。

インターネット上の誹謗中傷対策について
https://www.corporate-law.jp/blog2/2020/05/post-19.php

表現の自由とは,日本国憲法第21条第1項において,次のとおり保障されているものです。
「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。」

この表現の自由は,自己実現の手段であると共に,民主主義的な社会秩序を形成するためには不可欠な前提であるため,重要な権利となります。
そして,民主主義的な社会秩序の形成を阻害しないためにも,公権力による安易な表現行為の規制は許されません。

もっとも,表現の自由といっても,何を言っても許されるというものではありません。
例えば,刑法第230条第1項は,名誉棄損罪について次のとおり定めています。

「公然と事実を摘示,人の名誉を毀損した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

また,同じく刑法第231条は,侮辱罪について次のとおり定めています。

「事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する。」

※侮辱罪については,インターネット上の誹謗中傷対策として,厳罰化が検討されています。

発信者の特定手続き簡素化 ネットで中傷、侮辱罪の厳罰化 自民申し入れへ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/34527

さらに,名誉棄損については,民事上も,不法行為による損害賠償請求権(民法第709条,第710条),名誉回復処分請求権(同法第723条)等が認められており,民事責任の追及も可能となります。

では,具体的にはどのような場合に「名誉棄損」と言えるのでしょうか。
まず,名誉とは,「人がその品性,徳行,名声,信用その他の人格的価値について社会から受ける客観的評価,すなわち社会的名誉」を言うとされています(最大判昭和45年12月18日)。
すなわち,主観的な評価である名誉感情ではなく,客観的な評価である社会的名誉が毀損されたときに,名誉棄損として,上記の民事責任の追及が可能となるのです。

次に,名誉棄損は,そのような名誉を,事実の摘示によって毀損させたときに成立するとされています。
事実の摘示を含まない意見ないし論評の表明については,「その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱した者でない限り,名誉棄損の不法行為が成立しない」とされています(最判平成16年7月15日)。
これは,単なる意見や論評にまで名誉棄損を認めると,表現の自由が過度に制約されるためです。

そして,事実の摘示による名誉棄損の場合,その事実が真実であっても,それによって社会的名誉が毀損される以上,名誉棄損は成立します。
ただし,真実性の抗弁や相当性の抗弁が認められる場合は別です。

真実性の抗弁は,①公共の利害に関する事実にかかり,②目的が専ら公益を図ることにあって,③重要な部分において真実であることの証明があった場合には,違法性が阻却され,不法行為が成立しないとするものです。

相当性の抗弁は,上記の真実性の証明ができなかった場合であっても,③行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由がある場合には,故意過失がないため,不法行為が成立しないとするものです。

なお,伝統的には,名誉棄損は,出版や放送などのマスメディアによるものが問題となってきました。
マスメディアによる名誉棄損の場合,言論手段の非対称性のため,一市民である被害者が反論をすることは極めて困難です。
このような事情が,名誉棄損が問題となる訴訟の帰趨に影響を与えていました。

しかし,近年問題となっているインターネット上の名誉棄損の場合,被害者も,自ら反論をすることが可能です。
例えばインターネット上の掲示板で名誉棄損の書き込みがされた場合,被害者も,同じ掲示板に反論の書き込みをすることで,対抗することができるのです。

そのため,東京地判平成13年8月27日は,「言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現の自由の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し,十分な反論を行い,それが功を奏した場合は,被害者の社会的評価は低下していないと評価することが可能であるから,このような場合にも,一部の表現を殊更取り出して表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を委縮させるおそれがあり,相当とはいえない」と判示しています。
このような法理を,対抗言論の法理と言います。

ただし,インターネット上の掲示板における投稿は,相対する当事者の論争と異なり,当事者間の言論と言論との間に時間的な隔たりが介在する余地があります。
例えば,討論の場でAさんがBさんの名誉を棄損する表現をした場合,Bさんが直ちに反論をすることで,Bさんの社会的名誉が毀損されることを防ぐことが可能です。

しかし,インターネット上の掲示板における投稿の場合,AさんがBさんの名誉を棄損する投稿をした場合に,Bさんがその投稿を直ちに見て,直ちに反論の投稿をするということができないことは往々にしてあります。Bさんが後日になってAさんの投稿に気付いて反論の投稿をしても,Aさんの投稿を見た閲覧者がBさんの投稿まで見るとは限らず,Bさんの名誉は毀損されたままということがあり得ます。

一方,ツイッターのようなSNSの場合,Aさんの投稿に対してBさんがリプライの形で反論の投稿をすれば,閲覧者は反論も含めて見る可能性が高いということがあり得ます。
そのため,この対抗言論の法理を検討するにあたっては,投稿されたインターネットの特性等につき,丁寧な事実認定が必要になります。

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